さえ子 「もしかして
     あの・・・・・・
     家にとまりに
     きたとき
     おじいちゃんが
     話して
     くれた?」

伊良  「そう
     10時すぎまで
     おきていると
     美しいお面を
     かむった
     男か女かわからない
     ひとが
     大きなカマスを
     用意して待っていて
     子供をつめて
     ひき肉機にそのままいれて
     たべてしまう
     という話」
(1)

◎以上は、大島弓子さんの「バナナブレッドのプディング」[大島1977〜79]から引用した。
 主人公達が幼かった頃の思い出として語られる挿話だ。

 このページを読んだ時、私はおやと思った。
 たしか似たモノがいたな・・・
 
◎東北地方には、子供を叺(カマス)に入れてさらっていくモノの話が伝わっている
(2)。「カマスショイ」等の名を持つモノたちだ。多くの民俗語彙を集めた『綜合日本民俗語彙』には、以下のように紹介されている。

 カマスショイ 叺背負い。秋田の鹿角地方で、子供が泣くと來て大きな叺に入れて連れていくという假想の妖怪。

 「美しいお面をかむった男か女かわからないひと」と「カマスショイ」の間には、大人の言うことをきかない子供を脅かす文脈で語られる点、叺を所持する点、子供を誘拐するという行動の属性などに明らかな共通性が見られる。
 そう、「美しいお面をかむった男か女かわからないひと」とは、彼らの遠い子孫なのではないだろうか。
 おそらく、大島弓子さん自身か周囲の誰かが「カマスショイ」に類する話を聞き知っていて、それを少女マンガ風にアレンジして作中に登場させたのだろう。 これは少女マンガという媒体を通した怪異伝承の現代化の一例といってよいだろう。
 作中には主人公達がイメージしたものらしき彼(あるいは彼女)が表現されている。巻き毛で道化師風の衣装をつけた人物として描かれ、土着的なイメージからはほど遠い妖精めいた姿だ。藁莚の土臭さを感じさせる「カマスショイ」も捨てがたいが、浮遊感ある精霊というのもよいかな、と私は思ってしまった。



(1)『大島弓子選集』第七巻 p.168より
(2)叺(カマス)とは藁莚を二つ折りにして、側面を縫いあわせて作った大きな袋のこと。運搬用に用いた。

参考文献
 大島弓子 1977〜79 「バナナブレッドのプディング」(1986『大島弓子選集』第七巻、朝日ソノラマ) 

追記 怪談の「語り部」としての少女マンガ家という視点から書かれたエッセーに下記がある。参考までに紹介してお
  こう。
 大塚英志 1996「人気少女マンガ家たちと〈座敷童子〉の奇妙な同棲」(別冊宝島92 『うわさの本』)宝島社 p.41〜51

                                              (2000.09.23)
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