◎昭和60年頃、私はある店で雑文書きをして遊ばせてもらっていた。
 これはその店のオーナーの友人が実際に体験したという触れ込みで聞かされた話。
 そう、都市伝説(世間話)にありがちな「友達の友達」の体験談というやつだ。

  岡山市の市街地の東にS---という名の川が流れている。
  店長の友人は、その川の堤防上の国道を通ってバイクで通勤をしていたという。

  午前2時頃。
  残業で思いのほか遅くなってしまった彼は、帰途を急ぎバイクを走らせていた。
  やがて、バイクは S---川の堤防にさしかかる。
  対向車は途絶えており、堤防上を走るのは彼だけだった。

  と、前方から自転車がやって来る。
  ひとりの女性が乗っていた。
  すういすいと近づいてくる。
  遠目に見た感じでは、彼女も自転車も特に変わった点はなかったという。
  そして、何ということもなくすれ違うはずだった。

  が、彼は気づいてしまった。
  近づくにつれて、彼女の自転車の車輪がだんだんと大きくなっている事に。
  バイクのシートの上、恐怖に凍りつく彼。
  傍を過ぎる瞬間、車輪の直径は彼の背丈を遥かに越えていた。

  慌ててバイクを停め、背後を振り返る・・・
  案の定、そこに自転車は影も形もなかった。

 
「考えてみれば、あんな時間に女性がひとりで通るわけないんです」と後に彼はコメントしたそうだ。

◎この話に現れるモノは、「見越入道」などの身体を伸長させることで人を驚かす妖怪達に似ているといってよいだろう。だが、自転車に乗っているという点が他に例を見ない。また、時代による妖怪譚の変遷という視点から見ても興味深い例だと思う。

                                              (2000.11.26
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