◎もう、一昨年前のことになる。
 私は本職のほうで、ある女子大の学生さん達にアルバイトをお願いして文化財の調査をしていた。
 気持ちのいい人ばっかり集まったので、仕事はとてもやりやすかった。
 昼休みともなれば、明るい笑い声が絶えなかった。その話題は、他愛の無いものといってしまえばその通りなのだが、みんな実に楽しそうに話すのだ。聴くともなく聴いていた私も、何度も爆笑させられた。
 いや、本当に楽しい現場だった。
 今でも彼女達には感謝している。

◎ある日の昼休み。彼女達はいつもどおり談笑していた。
 と、話題がなんだか怪談ぽくなってきた。
 私は悪趣味かな、と思いつつ耳を澄ませた。
 「四時婆」だの「花子さん」だのが、登場している模様(いいぞ、いいぞ)。

 やがて、最上級生のKさんが語り始めた。
 Kさんはそのほんわかした穏やかな性格で皆に慕われていた。彼女達のリーダーの位置にあったが、そんなことを気負ったりせずになんとなく、それでいてしっかりと先輩をこなしていた。当人が読んだら怒るかも知れないが、なんだか「肝っ玉母さん」って感じの人だった。

 私の妹がね、お化け見たって。
 二階のね、自分の部屋で。
 えーっなにーって感じで、話をよくきいたの。
 そしたら「輪入道」だったって・・・。
 あの鬼太郎とかに出てるの。
 車輪の真ん中にガァーって感じの顔があるやつ。
 それが、部屋の真ん中の空中で、ぐるぐるぐるって回転したんだって。
 で、すぐ消えたらしいけど。
 怖かったー、っていうのよ。

 ちょっとだけ、沈黙。
 皆、どう突っ込んだものか困ったのだろうな。
 そして、Kさんはからっとした声で続けた。
 
 「わたしゃ、唐突にそんなこと言うあんたのほうが怖いわ」といってやったわ。

 ははは、ごもっとも。
 「肝っ玉母さん」らしい実に健全なバランス感覚。
 一同爆笑。当然、私も笑った。

◎「輪入道」は鳥山石燕の創作とおぼしき妖怪だ
(1)。それがホントに目撃されたのかどうか、まったく気にならなかったわけじゃなかったけど、彼女に詳しく尋ねるのはやめにした。
 だって、見事なオチに対して失礼だ。妹の嘘かとか、彼女の創作かとか、メモと鉛筆持って問い詰めるなんてのは野暮だよな。
 だから、この「輪入道」目撃談の真偽は永遠の謎でいい。



(1)[多田 2000]を参照のこと。個人によって創作された妖怪がホントに目撃されたっていいとは思うが、それと今回の話題は別問題。とりあえず切り離して理解して頂きたい。

参考文献
 多田克己 2000 「絵解き 画図百鬼夜行の妖怪 輪入道」『怪』第九号、角川書店 P.318
                                              (2001.04.23)

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