『「怖くて不思議な体験」自慢』
編著:不思議な世界を語る会
発行所:株式会社二見書房
価格:495円+税
 かつて怪談などの世間話が口頭で伝えられる場であった井戸端や縁台での夕涼みといった地縁的な空間は、私が生まれるよりも前にほぼ壊滅していた。学校や職場等の公的な空間がその役割を非公式に代行し、出版物やTVといったメディアが、怪談の主要な伝播経路となっている状況こそが、良くも悪くも私達が生きているこの時代の民俗なのだろう。

 そして最近では、新たな伝承母体がWeb上に形成されつつある。試しにいずれかのサーチエンジンで「怪談」をキーに検索をかけてみるとよい。一日やそこらでは閲覧しきれぬ数の怪談実話サイトを見つけることが出来るはずだ。
 そこでは、情報技術革命の掛声のもとに繰り広げられる昨今の現世利益一辺倒の狂騒を他所に、無数の怪異が密やかに語られている。怪異の実体験者を名乗る投稿者達が、自らの小さな物語を綴る文章は、粗削だが妙なリアリティーに満ちていて興味深い。

 本書はそうしたサイトのひとつ 「怪異・日本の七不思議 」に寄せられた投稿を編んだ怪談集だ。ネットのコンテンツに依拠した怪奇本は、いくらか刊行され始めているが、本書はサイト主催者が編集に関わっている点で好企画。書籍に姿を変えても、ネットならではのあやしさが比較的良好に維持されている。

 こうした出版物に刺激されて、Webをフィールドとする新時代の柳田國男が現れないものだろうか。この電気仕掛けの遠野郷には「仮死魔霊子」や「杉沢村」など、いかがわしくも魅惑的な世間話が満ち溢れているのだから。
                                  
(2000.09.10)
                                         (2000.11.15加筆訂正)

 この文章も『幻想文学』誌59号の「幻想ブックレビュー」に投稿し、落選したもの。
 活字メディアで
Web上の伝承母体について触れることには、この世界を未だ知らない人たちへの普及効果という意味で、それなりに価値があったかもしれないが、Webで公開したのではあまり面白味ないな、と(残念)。
                                         (2000.11.15)

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